車椅子での電車利用は、乗合バスに続いて、またひとつ新しい挑戦でした。
きっかけは定期通院。バスで通うクリニックとは別に、電車に乗らなければ行けない病院がもうひとつあったのです。
コロナ禍のあいだは電話診察で済んでいたものの、状況が落ち着くと、ついに「来院してください」と言われてしまいました。
■ 電車に乗るのが “怖い” と感じていた理由
まだわたしが車椅子を使っていなかった頃、車椅子で電車に乗っている方を何度も見かけていました。
そのたびに「車椅子でも安全に乗れるんだ」と、頭では理解していたはずなのに――
いざ自分がその立場になると、なぜかしり込みしてしまったのです。
「大丈夫、大丈夫」と思っても、気持ちはなかなか前に進まない。
でも薬が切れそうになり、とうとう覚悟を決めました。
■ 最寄り駅へ電話したら、意外なほど“あっさり”助けてもらえた
JRを利用するため、最寄り駅へ電話をしました。
「車椅子で〇〇まで行きたいのですが……」
すると駅員さんは落ち着いた声で、
「大丈夫ですよ。駅員と電車の手配があるので少しお時間をいただきますが」
と即答してくれました。
その「大丈夫ですよ」のひと言だけで、胸がすっと軽くなったのを覚えています。
早めに駅へ行き、声をかけると――
「あ、お電話くださったのはあなたですね」
すでに情報が伝わっていて、乗る電車・到着駅の駅員さんにも連絡済みとのこと。
「では行きましょう」
そう言ってホームまで付き添い、乗車位置まで案内してもらいました。
■ スロープをかけてもらい、ついに電車へ
電車が到着すると、駅員さんは放送で専門用語らしき連絡をし、
スロープをホームと車両の間に渡してくれました。
後ろをそっと押してもらい、わたしは無事に車内へ。
「お気をつけて!」
その声を聞いた瞬間、降り続いていた心配の雨がすっと晴れたようでした。
車内では、ふだん気にしない揺れが少し怖く感じましたが、
それでも転ぶことなく無事に目的地へ到着。
降りる駅では駅員さんがすでに待っていて、
「お待たせしました」
とスロープをかけてくれました。
■ そして帰り道――「おかえりなさい」に胸が熱くなる
帰りは行きよりも落ち着いて電車に乗れました。
そして家の最寄り駅へ戻ると、わたしを待っていてくれたのは、なんと行きに送り出してくれた駅員さん。
「おかえりなさい」
その一言に、胸がじんわりと熱くなりました。
ただ電車に乗って帰ってきただけなのに、
こんなにも安心できる言葉で迎えられるなんて思わなかったのです。
駅員さんはスロープを片付けながら、
「またいつでも声をかけてくださいね」
と当たり前のように言ってくれました。
その言葉が、今日いちばんの支えでした。
■ 小さな一歩が、わたしの世界をそっと広げた
家へ帰る道すがら、ふと気づきました。
・電車に乗ることは思っていたよりずっとハードルが低かったこと
・そして何より――“わたしはひとりじゃない”ということ
見慣れた帰り道の景色が、少しだけ明るく見えた気がしました。
初めての電車デビューは、
わたしの世界をやさしく広げてくれた、
かけがえのない一歩だったのです。


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